2025年12月20日(土)、21日(日)に開催された馬込文士村演劇祭のブックフェア、トークイベントに行ってきた。ブックフェアの会場に出ていたカフェや、会場となった大田文化の森前の広場に出たキッチンカーでも買い物をした。参加しているなかで「運営から集客に苦戦している状況という話を聞いた」というような情報に接したことがある一方で、イベントらしい売上記録が出たという話も出店された方から聞くことができたりもした。演劇祭の観客をブックフェアにも誘導するようにされていたのは運用上予定されていたのだろうがもしかしたらそれだけでは足りていなかった、ただブックフェアと同じ会場で柴田元幸さんの朗読会、「カフェ昔日の客」関口さんと夏葉社島田潤一郎さんのトークイベントを開催したのは効果的で来客は本を買いお茶をしていったのかと推測している。
ただイベント全体として見れば反省点があったはずで、このイベントが今後も続けられるのであればそれは主催者である公益財団法人大田区文化振興協会で今回の結果分析と改善案が用意されるべきだとおもうのだが部外者が勝手に振り返りを書いてみたい。
……ということを昨年の12月末に書き始めて長くなり、かつ途切れ途切れに書き足していった結果3か月ほど経ってしまった。今更だが公開する。
今後も「馬込文士村演劇祭」として開催されるとして
演劇祭が今後も続くとして、そして今回のブックフェアのようなイベントを包含して開催していくとした場合、やはり場所は今回の大田文化の森になるだろうか。
今回出店された出版社の方と話しているなかで、「駅からちょっと遠いですよね」という感想をいただいて地元民としては苦笑いするしかなかった。これまでにも書いているが大森駅から大田文化の森がある大田区中央、春日橋より西側までの距離は佐多稲子をして嘆かしめたぐらいの距離はある。駅との行き来はバスがお勧めだがバスというのは路線選びが時に難しく初めてその地を訪れる人に優しいとはいえない。それでも次回もこの場所になるかもしれないのだがそれはこの施設が劇場施設を擁しているからにほかならない。
他にないかというと、候補になりそうなのは二か所ある。一箇所は最近JR大森駅にほど近い入新井第一小学校を再開発してできた「スマイル大森」という施設で、大田文化の森と同様に区の施設になっている。ここの多目的室は舞台を備えていて演劇につかえないことはなさそうに見えるが専用設備ではないように見えるので音響などがどうなのかによる気がする。
もう一箇所はやがり大森駅近く、山王側にある天祖神社の階段をあがってすぐにある日本芸術専門学校の施設である「山王ヒルズホール」でこれは専用設備だが区の施設ではなく、演劇以外のイベントを同じ場所で開催するのは難しいかもしれない。
「馬込」の縛りを外せば蒲田駅前の大田区民ホールアプリコ、下丸子駅前にある大田区民プラザまで候補に入れられるのだが。
ブックフェア単体で行うとしたら
劇場施設に縛られずブックフェアを主体に行えるとしたら開催場所の選択肢は広げられる。場所は出来れば交通の便を考えて鉄道駅の近くが良いだろう。いくつか候補を挙げてみる。
JR大森駅
前述の「スマイル大森」は新しい施設でもあり会場に適していそうな気がする。さらに大森駅に近い施設がないかというと駅前の大森銀座商店街「Mills(ミルパ)」にある「Luz大森」(ラズおおもり)も候補に出来るように思う。大田区立入新井図書館と同じ4階に大田区入新井集会室がある。
都営地下鉄浅草線馬込駅
先日「カフェ昔日の客」でコーヒーをいただきなが話していた時に奥様が「馬込図書館はすごい施設なのに十分に評価されてないと思う。あんなにすごいのに」と話されて、私も深く首肯したということがあった。
大田区立馬込図書館は1971年(昭和46年)に開館した施設で、同じく図書館施設を備えた大田文化の森やLuz大森に比べると古い施設だということになる。馬込駅のA1出口を出て環七通りを渡ったすぐの場所にある。ぱっと見た感じなにがすごいのかが伝わりにくい施設かもしれない。だが馬込図書館がすごいのは持っている機能とコンテンツにある。
まず馬込図書館2階に「馬込文士村資料室」という棚がある。馬込に居住したことがあるなど縁のある作家の作品をあつめており、返却時に馬込図書館の窓口に返却するという制限はあるものの借りることもできる。今はただの住宅地となっている馬込の文学面・芸術面の歴史的な集積を実際に手に取ってみることができる。私などは日常的に使わせてもらっていて当たり前になっているのだが、これを実現しているということはもっと世に喧伝しても良い。
ちょっと脱線するがJR大森駅と大田文化の森の間あたりにあるメガドン・キホーテ大森山王店が「ダイシン百貨店」だった時、旧店舗をリニューアルして今の建物に建て替えたことがあった。直ぐに時期を思い出せないが 2010 年~ 2015 年頃だったかとおもう。「ダイシン百貨店」には書籍売り場があり、リニューアル後の書籍売り場をカフェコーナーを備えた今どきの店内であったが、この書籍売り場が「馬込文士村コーナー」の棚を用意していた。残念なことに1年経たないぐらいでこのコーナーは無くなってしまったと記憶しているのだが、あまり売上に貢献しなかったのだろうと推測している。確かに古書店ならば継続できるのかもしれないが新刊書店で継続していくには結構な覚悟が必要となる棚であったかもしれない。それが馬込図書館に行けば馬込近辺に居住履歴があった作家については網羅的に作品が集められ継続運用されているわけで、本を読むものとしてはこれほどありがたい場所はない。
さらに馬込図書館は近くに居を構えられていた城昌幸(城左門)氏の蔵書寄贈による「城昌幸記念文庫」を擁する。現在は閉架だが図書館内であれば貴重な資料にあたることが可能である。城昌幸は詩人であり、ショート・ショートという形式の作品の本邦における先駆者であり、人気作品となり映像化もされた「若さま侍捕物手帖」の作者という多彩な面を持つ小説家である。
馬込図書館は3階に会議室もあり、そこを使って講演企画などもされている。ブックフェアのような本の売買を伴うイベントの開催例はないかもしれないが、検討の余地はあるのではないだろうか。
都営地下鉄浅草線西馬込駅
馬込駅のひとつ隣、浅草線始発駅の西馬込駅だと駅の改札を出てすぐ前、第二京浜道沿いに大田区の施設「ライフコミュニティ西馬込」がある。地元の人からすると「あの1階にトレーニング施設があるとこ」という感じだが上の階に特別研修室があり、ある程度のイベントは開催できるかとおもう。
東急池上線池上駅
馬込の隣、池上になると駅から本門寺の参道をあるいて山門の前を少し奥に行くので少し離れてはいるが大田区の施設として「池上会館」がある。多目的室、集会室、会議室と設備はきちんとしていて、大田文化の森、スマイル大森と同様のキャパシティがあるのではないかとおもう。ただし、一部施設の耐震補強工事が入るようで集会室と西館が今年いっぱい、あるいは今年度中使えないといった状況ではあるらしい。
あと、これはこのあと述べるのだが駅から少し距離がある施設として池上会館と大田文化の森を比べた場合、池上会館の場合道すがらにある本門寺およびその参道には距離を忘れさせる効果がありそう、ということが挙げられるかとおもう。
大田区は訪れるべきまちだろうか
演劇祭なりブックフェアなりのイベントがそもそも訪れる目的として成立するのが望ましいのだけれど、開催地が大田区であったとしてわざわざ訪れたいようなまちであるだろうか、と問われれば地元の人間としては「あるんじゃないの?」と答える。ただ、区外の方からみれば必ずしもそうではないかもしれない。それについてはひとつはアピールが十分ではないんじゃない? ということはあるのかもしれない。
このことについては昨年蒲田にあった「大田区観光情報センター」が閉館になった、ということなどからも伺い知れる気がする。羽田から来た、国内だけでなく海外からの旅行客も対象にということで用意された施設だったのだろうが、羽田空港におり立った旅人は最初から蒲田を目的にしていない限りにおいては蒲田は素通りして電車を乗り換えたりバスに乗ったりして宿泊地に向かうのだろうと思われということはなかなか使われることがなかったのだろう。さらに現大田区政は蒲蒲線( 800 メートルほど離れている京急蒲田駅と東急蒲田を相互乗り入れして利便性を高めることを目的に構想されている鉄道路線)に前向きであって旅行客が大田区を通り過ぎる方向であることからもそのちぐはぐさは際立つ。
旅行客へのアピールについては今は Instagram や Tiktok、 Youtube といったソーシャルネットワークサービスをうまく使うというのがひとつのやり方になるのだろうとおもう。そのうえで各鉄道駅に対面で案内を乞えるような仕組みをある程度のコストをかけてやるというのが大田区が取り得る施策ではないかとおもう。
というのは観光情報センターのような施設が有効なのは旅で訪れるべきである場所がある程度まとまっているような場合で、大田区はそうではないまちなんじゃないか、という認識がある。大田区は観に行く、体験する場所というのはあるのだけれどそれがそれなりの広さを持つ区域に散在していて総体としては薄まって見えてしまいかねないし、「観光情報センター」ではカバーし辛いだろう。
ならどうするのか、と言われて答えを持っているわけではないのだが、ここではわざわざ行くに値しそうなテーマをあげてみたい。それをつなげることでいくつかのツアープランができると良いなとおもう。
街並み・商店街
大森駅付近はいくつもの商店街があるわけだがどこにでもありそうな商店街ともいえる。あえて言えば過去に複数のテレビコマーシャルやドラマでロケ地として使われてきた大森銀座商店街(Milpa)だろうか。以下など参照。
mukunokiyasuo.hatenablog.com
大森界隈で他に目を向けるとやはり地獄谷かな……という気がする。この辺りのJR東海道線および京浜東北線は紀元前の縄文時代あたりの海岸線付近を通っており、北側が急に上がるような地形になっている。地獄台は線路沿いを通る池上通りから階段を下りて行かないと辿り着かない、池上通りと線路の間にある崖の途中の狭い土地に飲み屋がびっしりと集まっているという飲み屋街の通称である。
実は大森駅近辺は再開発の計画がすでに決まっており、地獄谷も再開発エリアに含まれて存続については風前の灯となっている。聞いている限り現在のような飲み屋街として残すような方向性は検討されておらず大森として特徴のある風景は無くなる公算が高い。それでなくとも前述の大森銀座商店街内にあった「朝から飲める」という狂った感じの飲み屋は「酒蔵一番」も「富士川」もパンデミックを経て閉店してしまい、飲み屋街としての大森界隈の個性をどう存続させ得るのかというのは「わざわざ来るまちであるか」という観点でも必要になるかとおもう。
まぁそういう飲み屋街としての個性は蒲田側に在り続けており(バーボンロードとか)蒲田周辺は人気店も多い。
いわゆる人気店
ここでは主に飲食店(テイクアウト店含む)が対象としてみる。待ち行列ができるような店を思い浮かべてみるといくつか思いつく。いずれも大森駅周辺。
- 味のとんかつ丸一 …… とんかつ
- 天冨久 …… 天ぷら
- 青麦 …… ラーメン
- ネコゴオリ …… かき氷
蒲田まで広げると檍なんて有名店があるし、丸一も蒲田店があって餃子ととんかつは名店めぐりマップみたいなものは作れるだろうとおもう。ラーメンも同様。
あとは、駅前ではなく、ちょっと不便なところにも名店は存在したりするのでそれを適度に探して回りやすくするなどできればそれぞれテーマとして成り立ち得るかもしれない。
温泉
東京都内にも温泉は湧いていて大田区は比較的軒数が多いということは時々テレビでも取り上げられるのをみることがある。これも蒲田側が多いのだがボートレース場のところに天然温泉平和島があり、また温泉ありの銭湯として改正湯がある。池上には桜館、久が原にも2軒温泉に入れる銭湯がある。
アート
馬込文士村演劇祭自体もそうなのだが、大田区はアートに関して積極的に支出する方針を採っているように、区民からは見えている。規模は小さいと言えるかもしれないが複数の芸術関連の施設が区内にあり、それらの施設を使った展示活動について意欲的な特別展が行われるようになっており、また設備の拡充が行われている。
「美術館」としては川端龍子記念館がまず挙げられる。大田区中央(新井宿)にあり、日本画家川端龍子が生前に建設した美術館と、龍子の自邸兼アトリエがそのまま残されている。近年、高橋龍太郎コレクションとのコラボレーション展示を行うなどわざわざ観に訪れるに足るような特別展を開催している。あとは南馬込の熊谷恒子記念館。これも書家熊谷恒子の自邸が記念館として保存されている。そして、熊谷恒子記念館の道向にあった介護施設の建物が最近大田区立馬込アートギャラリーという施設にリニューアルされた。
また、これも南馬込にある大田区立郷土博物館では川瀬巴水や高橋松亭の展示会を毎年開催している。また過去に「勾玉」「弓矢」といったテーマに絞って特別展を開催しており、こういった特別展もわざわざ観に来る価値があるものだった。
もうちょっと範囲を広げれば山王の尾﨑士郎記念館や山王草堂記念館(徳富蘇峰旧邸)、洗足池のほとりにある勝海舟記念館(旧清明文庫)、南久が原の昭和のくらし記念館といった施設もある。
ここで課題として語らざるを得ないのが、先に述べたお店にせよ、温泉にせよ、各施設にせよ、東京24区のなかでも比較的広い区域を持つ大田区の中に散在していて、区外からわざわざ足を運んでくださった方がいたとしても回り易くはなっていないということ。距離だけではなく、高低差もある複雑な地形をもっており上り下りもある。
お隣品川区で「しなバス」という小型のバスを巡回運航されているが、ああいう小回りが利く公共交通機関を既存とは異なる路線で走らせてはどうか、というのがひとつの案としては考えられるかもしれない。
別の案としては、大田区内の施設を二輪車歓迎に全振りして走行も駐輪もし易いように整備してはどうか、ということも考えられる。交通ルールの遵守が前提はなるだろうが。
いずれの案にせよ初期費用も運用費用もかかるはずで、そういった方向に投資をする余地が区の財政としてあるかどうか、ということについては検証して書いているわけではないのだが、既にある大田区が持っている「財産」を相互に結び付けてこのまちをより栄えさせることができると良いのだけど、という気持ちで書き連ねてみた。