「犬ではないと言われた犬」 向坂くじら (百万年書房)

 昨年の12月に開催されて、ここでも別途記事にした「馬込文士村演劇祭2025ブックフェア」で購入した本のことを書きたいのだが、購入に至る経緯を含めて。

 

 ブックフェアに出る前、家でちらっと Twitter をみていたらこんなポストが目に入った。

 

 

 百万年書房代表の北尾修一さんのポストである。うむ。なるほど申し訳ない。地元民ならば分かることだが大田文化の森付近に店舗というものがあまりない。コンビニエンスストアといえば春日橋の交差点を斜向かいに渡った先にあるセブンイレブン、池上方面に少し歩いてミニストップ。ミニスーパーだと春日橋の交差点角にまいばすけっと。どれもちょっとづつ歩かねばならず、他のまちから来られた出店者の方々に優しくない。この文章の末尾にブックフェスタ開催前に書いた文章を貼っておりそこにも書いたが大田文化の森という開催場所が微妙な点が悪い方に出てしまった事象である。焼きそばは大森駅から大田文化の森に池上通りを向かう途中、大森郵便局の隣にあるオリジン弁当で購入されたのだろう。

 

 スーパーマーケットやコンビニで弁当などテイクアウトで買う際についている割り箸やスプーンは取ってあるし、100円ショップでも割り箸や紙皿は購入してストックしてある。これは COVID-19 やインフルエンザなどに家族が罹患した際に食事を紙皿や割り箸で供して洗い物をしなくて良いようにするための備えである。災害が発生した場合にも使えるだろう。私は割り箸を一膳かばんに入れて大田文化の森に向かった。

 

 

 既にどなたかが箸を持っていかれたかもしれないと思っていたがどうやら間に合ったらしい。良かった。

 

 百万年書房さんのブースをみると向坂くじらさんの著書が一番目立つところに陳列されてある。北尾さんが「向坂くじらさん、すごいですよね」 と声をかけてくださる。

 

 申し訳ない、実のところこの時点で私は向坂くじらさんについてお名前ぐらいしか知らずにいた。二年連続で芥川賞候補に挙がっていたのに。

 

 いや、多分そういうことではない。私は向坂さんの随筆集のなかから『犬ではないと言われた犬』を選んで出版社代表の手から購入して、恐らくは会場にいる時点から読み始めていたのだが(これはなんで読んでなかったんだろうね……)とすぐに感じていた。いや、普段から文学賞受賞作にしろ村上春樹の新作にしろなかなか手に取らず自分に興味があるような本をやすみやすみ読んでいる程度の人間なんだから仕方ないのだけれど。

 

 どの章も書き出しがすっと身近なところに入ってくる。例えば表題作「犬ではないと言われた犬」の書き出しは回転寿司が好き、という一文から始まる。それが『美味しんぼ』の山岡士郎の話になる。『美味しんぼ』を読んだ人なら「1週間後に~」のあのフレーズを想起するだろうし、あるいは読んだことはない人であってもネットミーム的にどこかで使われているのに接したことがあって察することができるかもしれない。それが詩人である向坂さんにとって大事な話になっていく。

 

 単に文章がうまいだけではない。引用される詩や文章からは多くの作品を向坂さんが摂取されていて、その中から琴線に触れるものがとってあるのであろうことがうかがえる。北尾さんの「向坂くじらさん、すごいですよね」はそういう作品への好評価を受け取ってきたことも含めての言葉であったかとおもう。

 

 

 

 

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ストロング系酎ハイの成分への疑義への回答に出会った話

  7年ほど前に人間ドックの結果で肝臓に関する検査値が悪くなり、ストロング系酎ハイをやめたらある程度戻ったということを書いたことがあった。なんで他のお酒では起きずに酎ハイで起きるのだろうか、なにが入っているとこうなるのだろうか、というようなことを書いていた。

 

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 これについてほぼ答えとなるような動画を Pivot でみてなるほどね、となったことがあったので事後談として書いておきたい。まとめると、

  • アルコール自体に 1g  : 7.1 kcal(キロカロリー)ある
  • 例えばアルコール度数 9.0 % のストロング系酎ハイは飲みやすさの割にレギュラー缶1本で 200 kcal に相当する
  • 平均値で1日に摂取して比較的害の少ないアルコール量の目安は男性で 50 g、女性で 40 g
  • 肝臓はタフな臓器なので一定時間で復活する。48時間、少なくとも1日あけて飲むことを推奨している
  • 酒は害があることは分かっているが厳しくするとアルコール依存症治療などでは患者は来なくなっちゃうので飲みながら減らしていく妥協案を示していく

 


www.youtube.com


 2020年の文章を書いた頃には週末などは続けて飲酒する日もあったので、その状態でビールレギュラー缶2本のあとにアルコール度数の高い酎ハイを飲む、というような行動が肝臓に関する検査数値に影響を与えていたというのが答えだったのだな、と理解できた。

 

 PIVOT ではこのテーマの動画が他にもあって、「果物を食べるのと、果汁100%ジュースを飲むのと、量が同じであっても肝臓へのダメージは違う」ということを説明しているものもあった。ジュースの方が、身体に入ってくる速度が圧倒的に早いため肝臓への負担が大きくなる、という話しでこれは比較的飲みやすく作ってある酎ハイであっても同じことが言えるのかもしれない。

 

 これを受けて昨年から、飲む日をできれば週2日とし1日以上空けるようにして、数値がどうなっているのかを見るようにしている。あと、これは NHK の「あしたが変わるトリセツショー」という番組で「お酒とのつきあい方」というテーマでやっているのをたまたまみて、紹介されていた「最初の1杯/本を30分かけて飲む」という飲み方を実践するようになった。これも満足感があるまま酒量を抑えることができている。

www.web.nhk

 

 今年の人間ドックの検査結果では残念ながら γ-GTP の値はまだ正常値にはなっていなかったが少し落ちていた。なお数年ぶりに GPT(ALT) の値が要注意となっていて、この値は非アルコール性脂肪肝でも悪化するので恐らくはそちらだな、と思っている。食事と運動に関して少し見直して体重を落とそうとしていて、その結果が来年の検査値にどう出るかを注視する予定である。

 

 


 

 

『世界はフムフムで満ちている』 金井真紀

 昨年2025年9月の梅屋敷ブックフェスタで、牟田都子さんのブースの次に立ち寄ったのが金井真紀さんのブースだった。こちらも金井さん御本人がいらっしゃる。最初に手に取ったのは『聞き書き 世界のサッカー民』だった。私はセレッソ大阪のわりと息の長いサポーターなので。

 

 次に『世界はフムフムで満ちている』を手に取ると、すぐに石工の方にインタビューした章が目に止まってこちらを買った。こちらは、『関東子連れ狛犬の系譜』をかいているのだが石工の方について少しでも情報っぽいものがあればアクセスしようとおもうから。

 

 様々な職業の方の印象的な言葉をちりばめて書かれたインタビュー集。ひとつひとつはすぐ読めてしまう、四百字詰め原稿用紙で1枚半ぐらいの長さ。インタビューした相手の職業だけが書かれていて個人名などはないから、その時話を聴いて感じ取ったエッセンスをまとめたものだ。石工さんの章では

 

建設現場では、石工がいちばん下に見られてな。

 

 という一行が印象的で、この行ために買って読んだんだなとあとで思った。この本の副題は「達人観察図鑑」で、この石工さんも上記の一行の状況から自分のちからで何を目指すべきかをつかんで金井さんからインタビューを受けるに至っている。

 

  普段、どこのなんという石工さんの話、というような個人的な情報を、具体的な典拠であれ口碑であれ集めようとおもうのだけれど『世界はフムフムで満ちている』ではそれは前述のように全く書かれない。では私にとって無用な本なのかというとそんなことは勿論なくて、おそらくはきちんと時間をとられたインタビューからいいところを抽出する力もみごとだし、石工さんを取り巻く価値観に引用されたようなものがあって、だからこそ一部の石工の方は自分を「彫工」なんて呼び方で銘に刻んだりしたのかもしれないという可能性に気づくことができたので。

 



馬込橋食糧

 大田区中央(新井宿)から南馬込に向かって東急バスが臼田坂を登り切った先、馬籠八幡様と長勝寺を過ぎたところに馬込橋食糧という米穀店があった。第二京浜国道を横切る手前である。

 

 2010 年の Twitter のポストで、通勤経路がJR大森駅経由から東急荏原町駅経由に変わった時に日常的に前を通るようになった時に馬込橋食糧についてポストしている。

 

 

 やはり気になるお店の外観だったのだろうなとおもう。なので写真を撮っているはずだと思うのだが今のところ見つかっていない。あれほど前を通っていながらなんということだろうか。まぁ馬込橋食糧でお米を買ったこともないので致し方ないところなのかもしれないが。以下、Google Street View からとらせていただいた在りし日のお店の姿である。2023年というとパンデミックが収まってきた頃かと思うがすでに営業はされていなかったようにおもう。上記ポストの頃は店は開けておられたと記憶している。

 

 

 現在はリモートワークが基本となり、出勤する時もJR大森駅経由にまた変わっているのだが荏原町商店街に出ることは時々あり、2月のまだ寒かった頃通って更地にされつつあることに気がついた。以下は数日後、2026年2月23日に改めて様子を撮りに行ったときのもので完全に更地になってしまっていた。これを書いている7月時点も更地の状態である。お店含め広い敷地だったんだな。

 

 思い返すと大田区にやってきた2005年時点はお米やさんも今よりもあった。屋号を覚えていないが環七通りと大森駅を結ぶジャーマン通りの、数ヶ月前までパーチコーヒーさんがあったところの向かいのコインランドリーがあるところを入ったところの米屋さんでは玄米を購入したことがあった。コインランドリーがあった場所は当時赤い看板のリストランテで米屋さんがあったところは今は戸建てになってしまっているから20年も経てばまちの風景は変わってしまっている。

 

 第二京浜道路と馬込橋(写真前の道を右上に行ってすぐ)を越えたところ、東急バスの大森駅方面行きの馬込橋バス停前には北村米穀というお米屋さんがあったがこちらは2005年時点既に営業していなかったような気がする。品川区に入ってすぐの荏原町商店街は池上精米店とおはぎなどが人気の沖田精米が健在だが、かつては商店街をなしていたが現在は住宅地になってしまいかつ近隣の小売チェーンストア(ライフ、メガドン・キホーテ、西友トライアル、イトーヨーカ堂)に買い物に行く人が多くなってしまったであろう大森山王や馬込では個人商店の米穀店という商売は難しいのかもしれない。

 

 個人客としては店に入って値段みて買うか買わないか判断するのが難しいような仕組みになってしまっていると立ち寄り辛いし、飲食店からの注文があまりないとなると業務米穀店としても店の存続は難しい気がする。駅に近ければ池上の蓮月のように別業態で営業して建物を残すというようなこともあるかもしれないけれど、そういえば今日の蓮月さんの instagram でのポストで「2019年のカフェ紹介本に掲載されたうち12軒の古民家カフェは12軒閉店している」ということを書かれているのをちょうど読んだところだった。経営の才覚というものは求められてしかるべきだが、誠実に商売をされているならば店を続けていけるようであってほしい、結果的にそれでまちの風景やひとの気質というものが生き続けるならばより良いのではないか、という気持ちは持っている。


馬込の失われた建物たちシリーズ

 

 

 

 

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『文に当たる』牟田都子

 昨年2025年9月の「梅屋敷ブックフェスタ」の2週目にうかがった時、入り口で入場料500円を支払ってすぐが牟田むた都子さとこさんのブースだった。牟田さんは Twitter でポストされているのを一方的に見させていただいていたのでその方が突然現れたように感じてしまいちょっとびっくりしてしまった。いや、ブックフェスタのポスターには出店者のお名前は載っていたのでそんなのわかっていただろうと言われるべきところなのだが。

 

 一昨年から個人の出版ブランド「路傍の文学」を始めていて校正と校閲は自己で行っている。誤字脱字や用語の揺れについては ローカルPCに大規模言語モデル環境(いわゆる LLM)を構築して運用を検討しているというような状況。いずれにせよセルフ運用である状況は当面続くであるとおもう。そういう状況で、プロの校正家に仕事を依頼するというのは、それぐらいの費用を拠出できるようになるのは今はまだ難しいけれどいずれ……という、まだ遠いところにある目標であったりする。なので突然牟田さんから直接御著書を購入できるという状況は私にとっては挙動不審にならざるを得ない状況だった。選んで購入したのは『文にあたる』。校正や校閲そのものについて、あるいは校正に関係ある事柄について言及のある文を引用しつつ牟田さんの考えを綴られてある。

 

 今年2026年4月に創刊された雑誌『大田文学』に寄稿した拙文は既刊の『内川逍遥』で発表済みの作品だったが紙面を作る作業の中でのチェックで「なんでその記述揺れを見逃していたのか……」という箇所があった。なので校正者、校閲者が常に対峙するプレッシャーのごく一部に私も直面したことがあって、その直面の瞬間に私は『文にあたる』で読んだことを思い出していた。

 

 購入の際にひとことふたことお話しすることができたのだけれど、もうちょっと話が弾むように準備しておければよかったのかなとおもう。

 

 

 

南馬込萬福寺前の家

  萬福寺は大田区南馬込一丁目、住宅地のなかにある古刹である。その山門を出で前の道路を挟んだ正面にあった家が昨年二〇二五年に取り壊された。萬福寺の門前は変形の五叉路になっているが、その角に位置していた場所で往年の姿はこんな様子だった。

 

 


 私が馬込に来た時から人がお住まいであるような様子はこの建物からは窺えず、壁に地元の老人会の案内のような看板が出してあったり火事などの時に使うのだろうか梯子が壁に備え付けてあったりしていたもので集会所のような場所なのかとも思ったがそれにしても人の気配がなかった。

 

 ただ、一度だけでかつ正確な年月日も記録、記憶ともしていないがご夫婦と小学生らしい姉弟きょうだいが「久しぶりだね!」と言いながらわいわい建物に入って行くところに偶然遭遇したことがあって、やはり個人の所有でずっと空き家なのかな、と思い直したりしていた。

 

 二階の戸袋が鉄製だろうか、竹のレリーフが施してあるもので味があるなといつも思ってみていた。この戸袋も廃棄されてしまったのだろうが、今あんなものを作っている業者さんがおられるのか疑問でこういう文化財とは言えない、民俗資料にはなり得るかもしれない、といったものを遺すのは難しい。

 

 半年ほど更地になってそのままになっていたがそのうちに車が停めているのを目にするようになり、二〇二六年に入って舗装されて駐車場になった。萬福寺前に事務所を構えておられる建設会社さんが使っておられるようにみえる。元々建設会社さんの所有だったのか、この度取得されたのかは機会があれば調べておこうかぐらいに思っている。

 

2026年6月現在の馬込萬福寺前

馬込の失われた建物たちシリーズ

 

 

 

 

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馬込文士村演劇祭2025 ブックフェアについてもうちょっと世に広めたい - 振り返り

 2025年12月20日(土)、21日(日)に開催された馬込文士村演劇祭のブックフェア、トークイベントに行ってきた。ブックフェアの会場に出ていたカフェや、会場となった大田文化の森前の広場に出たキッチンカーでも買い物をした。参加しているなかで「運営から集客に苦戦している状況という話を聞いた」というような情報に接したことがある一方で、イベントらしい売上記録が出たという話も出店された方から聞くことができたりもした。演劇祭の観客をブックフェアにも誘導するようにされていたのは運用上予定されていたのだろうがもしかしたらそれだけでは足りていなかった、ただブックフェアと同じ会場で柴田元幸さんの朗読会、「カフェ昔日の客」関口さんと夏葉社島田潤一郎さんのトークイベントを開催したのは効果的で来客は本を買いお茶をしていったのかと推測している。

 

 ただイベント全体として見れば反省点があったはずで、このイベントが今後も続けられるのであればそれは主催者である公益財団法人大田区文化振興協会で今回の結果分析と改善案が用意されるべきだとおもうのだが部外者が勝手に振り返りを書いてみたい。

 

 ……ということを昨年の12月末に書き始めて長くなり、かつ途切れ途切れに書き足していった結果3か月ほど経ってしまった。今更だが公開する。

 

今後も「馬込文士村演劇祭」として開催されるとして

 演劇祭が今後も続くとして、そして今回のブックフェアのようなイベントを包含して開催していくとした場合、やはり場所は今回の大田文化の森になるだろうか。

 

 今回出店された出版社の方と話しているなかで、「駅からちょっと遠いですよね」という感想をいただいて地元民としては苦笑いするしかなかった。これまでにも書いているが大森駅から大田文化の森がある大田区中央、春日橋より西側までの距離は佐多稲子をして嘆かしめたぐらいの距離はある。駅との行き来はバスがお勧めだがバスというのは路線選びが時に難しく初めてその地を訪れる人に優しいとはいえない。それでも次回もこの場所になるかもしれないのだがそれはこの施設が劇場施設を擁しているからにほかならない。

 

 他にないかというと、候補になりそうなのは二か所ある。一箇所は最近JR大森駅にほど近い入新井第一小学校を再開発してできた「スマイル大森」という施設で、大田文化の森と同様に区の施設になっている。ここの多目的室は舞台を備えていて演劇につかえないことはなさそうに見えるが専用設備ではないように見えるので音響などがどうなのかによる気がする。

 

 もう一箇所はやがり大森駅近く、山王側にある天祖神社の階段をあがってすぐにある日本芸術専門学校の施設である「山王ヒルズホール」でこれは専用設備だが区の施設ではなく、演劇以外のイベントを同じ場所で開催するのは難しいかもしれない。

 

「馬込」の縛りを外せば蒲田駅前の大田区民ホールアプリコ、下丸子駅前にある大田区民プラザまで候補に入れられるのだが。

 

ブックフェア単体で行うとしたら

 劇場施設に縛られずブックフェアを主体に行えるとしたら開催場所の選択肢は広げられる。場所は出来れば交通の便を考えて鉄道駅の近くが良いだろう。いくつか候補を挙げてみる。

 

JR大森駅

 前述の「スマイル大森」は新しい施設でもあり会場に適していそうな気がする。さらに大森駅に近い施設がないかというと駅前の大森銀座商店街「Mills(ミルパ)」にある「Luz大森」(ラズおおもり)も候補に出来るように思う。大田区立入新井図書館と同じ4階に大田区入新井集会室がある。

 

都営地下鉄浅草線馬込駅

 先日「カフェ昔日の客」でコーヒーをいただきなが話していた時に奥様が「馬込図書館はすごい施設なのに十分に評価されてないと思う。あんなにすごいのに」と話されて、私も深く首肯したということがあった。

 

 大田区立馬込図書館は1971年(昭和46年)に開館した施設で、同じく図書館施設を備えた大田文化の森やLuz大森に比べると古い施設だということになる。馬込駅のA1出口を出て環七通りを渡ったすぐの場所にある。ぱっと見た感じなにがすごいのかが伝わりにくい施設かもしれない。だが馬込図書館がすごいのは持っている機能とコンテンツにある。

 

 まず馬込図書館2階に「馬込文士村資料室」という棚がある。馬込に居住したことがあるなど縁のある作家の作品をあつめており、返却時に馬込図書館の窓口に返却するという制限はあるものの借りることもできる。今はただの住宅地となっている馬込の文学面・芸術面の歴史的な集積を実際に手に取ってみることができる。私などは日常的に使わせてもらっていて当たり前になっているのだが、これを実現しているということはもっと世に喧伝しても良い。

 

 ちょっと脱線するがJR大森駅と大田文化の森の間あたりにあるメガドン・キホーテ大森山王店が「ダイシン百貨店」だった時、旧店舗をリニューアルして今の建物に建て替えたことがあった。直ぐに時期を思い出せないが 2010 年~ 2015 年頃だったかとおもう。「ダイシン百貨店」には書籍売り場があり、リニューアル後の書籍売り場をカフェコーナーを備えた今どきの店内であったが、この書籍売り場が「馬込文士村コーナー」の棚を用意していた。残念なことに1年経たないぐらいでこのコーナーは無くなってしまったと記憶しているのだが、あまり売上に貢献しなかったのだろうと推測している。確かに古書店ならば継続できるのかもしれないが新刊書店で継続していくには結構な覚悟が必要となる棚であったかもしれない。それが馬込図書館に行けば馬込近辺に居住履歴があった作家については網羅的に作品が集められ継続運用されているわけで、本を読むものとしてはこれほどありがたい場所はない。

 

 さらに馬込図書館は近くに居を構えられていた城昌幸(城左門)氏の蔵書寄贈による「城昌幸記念文庫」を擁する。現在は閉架だが図書館内であれば貴重な資料にあたることが可能である。城昌幸は詩人であり、ショート・ショートという形式の作品の本邦における先駆者であり、人気作品となり映像化もされた「若さま侍捕物手帖」の作者という多彩な面を持つ小説家である。

 

 馬込図書館は3階に会議室もあり、そこを使って講演企画などもされている。ブックフェアのような本の売買を伴うイベントの開催例はないかもしれないが、検討の余地はあるのではないだろうか。

 

都営地下鉄浅草線西馬込駅

 馬込駅のひとつ隣、浅草線始発駅の西馬込駅だと駅の改札を出てすぐ前、第二京浜道沿いに大田区の施設「ライフコミュニティ西馬込」がある。地元の人からすると「あの1階にトレーニング施設があるとこ」という感じだが上の階に特別研修室があり、ある程度のイベントは開催できるかとおもう。

 

東急池上線池上駅

 馬込の隣、池上になると駅から本門寺の参道をあるいて山門の前を少し奥に行くので少し離れてはいるが大田区の施設として「池上会館」がある。多目的室、集会室、会議室と設備はきちんとしていて、大田文化の森、スマイル大森と同様のキャパシティがあるのではないかとおもう。ただし、一部施設の耐震補強工事が入るようで集会室と西館が今年いっぱい、あるいは今年度中使えないといった状況ではあるらしい。

 

 あと、これはこのあと述べるのだが駅から少し距離がある施設として池上会館と大田文化の森を比べた場合、池上会館の場合道すがらにある本門寺およびその参道には距離を忘れさせる効果がありそう、ということが挙げられるかとおもう。

 

 

大田区は訪れるべきまちだろうか

 演劇祭なりブックフェアなりのイベントがそもそも訪れる目的として成立するのが望ましいのだけれど、開催地が大田区であったとしてわざわざ訪れたいようなまちであるだろうか、と問われれば地元の人間としては「あるんじゃないの?」と答える。ただ、区外の方からみれば必ずしもそうではないかもしれない。それについてはひとつはアピールが十分ではないんじゃない? ということはあるのかもしれない。

 

 このことについては昨年蒲田にあった「大田区観光情報センター」が閉館になった、ということなどからも伺い知れる気がする。羽田から来た、国内だけでなく海外からの旅行客も対象にということで用意された施設だったのだろうが、羽田空港におり立った旅人は最初から蒲田を目的にしていない限りにおいては蒲田は素通りして電車を乗り換えたりバスに乗ったりして宿泊地に向かうのだろうと思われということはなかなか使われることがなかったのだろう。さらに現大田区政は蒲蒲線( 800 メートルほど離れている京急蒲田駅と東急蒲田を相互乗り入れして利便性を高めることを目的に構想されている鉄道路線)に前向きであって旅行客が大田区を通り過ぎる方向であることからもそのちぐはぐさは際立つ。

 

 旅行客へのアピールについては今は Instagram や Tiktok、 Youtube といったソーシャルネットワークサービスをうまく使うというのがひとつのやり方になるのだろうとおもう。そのうえで各鉄道駅に対面で案内を乞えるような仕組みをある程度のコストをかけてやるというのが大田区が取り得る施策ではないかとおもう。

 

 というのは観光情報センターのような施設が有効なのは旅で訪れるべきである場所がある程度まとまっているような場合で、大田区はそうではないまちなんじゃないか、という認識がある。大田区は観に行く、体験する場所というのはあるのだけれどそれがそれなりの広さを持つ区域に散在していて総体としては薄まって見えてしまいかねないし、「観光情報センター」ではカバーし辛いだろう。

 

 ならどうするのか、と言われて答えを持っているわけではないのだが、ここではわざわざ行くに値しそうなテーマをあげてみたい。それをつなげることでいくつかのツアープランができると良いなとおもう。

 

街並み・商店街

 大森駅付近はいくつもの商店街があるわけだがどこにでもありそうな商店街ともいえる。あえて言えば過去に複数のテレビコマーシャルやドラマでロケ地として使われてきた大森銀座商店街(Milpa)だろうか。以下など参照。

 

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 大森界隈で他に目を向けるとやはり地獄谷じごくだにかな……という気がする。この辺りのJR東海道線および京浜東北線は紀元前の縄文時代あたりの海岸線付近を通っており、北側が急に上がるような地形になっている。地獄台は線路沿いを通る池上通りから階段を下りて行かないと辿り着かない、池上通りと線路の間にある崖の途中の狭い土地に飲み屋がびっしりと集まっているという飲み屋街の通称である。

 

 実は大森駅近辺は再開発の計画がすでに決まっており、地獄谷も再開発エリアに含まれて存続については風前の灯となっている。聞いている限り現在のような飲み屋街として残すような方向性は検討されておらず大森として特徴のある風景は無くなる公算が高い。それでなくとも前述の大森銀座商店街内にあった「朝から飲める」という狂った感じの飲み屋は「酒蔵一番」も「富士川」もパンデミックを経て閉店してしまい、飲み屋街としての大森界隈の個性をどう存続させ得るのかというのは「わざわざ来るまちであるか」という観点でも必要になるかとおもう。

 

 まぁそういう飲み屋街としての個性は蒲田側に在り続けており(バーボンロードとか)蒲田周辺は人気店も多い。

 

いわゆる人気店

 ここでは主に飲食店(テイクアウト店含む)が対象としてみる。待ち行列ができるような店を思い浮かべてみるといくつか思いつく。いずれも大森駅周辺。

  • 味のとんかつ丸一 …… とんかつ
  • 天冨久 …… 天ぷら
  • 青麦 …… ラーメン
  • ネコゴオリ …… かき氷

 蒲田まで広げるとあおきなんて有名店があるし、丸一も蒲田店があって餃子ととんかつは名店めぐりマップみたいなものは作れるだろうとおもう。ラーメンも同様。

 

 あとは、駅前ではなく、ちょっと不便なところにも名店は存在したりするのでそれを適度に探して回りやすくするなどできればそれぞれテーマとして成り立ち得るかもしれない。

 

温泉

 東京都内にも温泉は湧いていて大田区は比較的軒数が多いということは時々テレビでも取り上げられるのをみることがある。これも蒲田側が多いのだがボートレース場のところに天然温泉平和島があり、また温泉ありの銭湯として改正湯がある。池上には桜館、久が原にも2軒温泉に入れる銭湯がある。

 

アート

 馬込文士村演劇祭自体もそうなのだが、大田区はアートに関して積極的に支出する方針を採っているように、区民からは見えている。規模は小さいと言えるかもしれないが複数の芸術関連の施設が区内にあり、それらの施設を使った展示活動について意欲的な特別展が行われるようになっており、また設備の拡充が行われている。

 

「美術館」としては川端龍子記念館がまず挙げられる。大田区中央(新井宿)にあり、日本画家川端龍子が生前に建設した美術館と、龍子の自邸兼アトリエがそのまま残されている。近年、高橋龍太郎コレクションとのコラボレーション展示を行うなどわざわざ観に訪れるに足るような特別展を開催している。あとは南馬込の熊谷恒子記念館。これも書家熊谷恒子の自邸が記念館として保存されている。そして、熊谷恒子記念館の道向にあった介護施設の建物が最近大田区立馬込アートギャラリーという施設にリニューアルされた。

 

 また、これも南馬込にある大田区立郷土博物館では川瀬巴水や高橋松亭の展示会を毎年開催している。また過去に「勾玉」「弓矢」といったテーマに絞って特別展を開催しており、こういった特別展もわざわざ観に来る価値があるものだった。

 もうちょっと範囲を広げれば山王の尾﨑士郎記念館山王草堂記念館(徳富蘇峰旧邸)、洗足池のほとりにある勝海舟記念館(旧清明文庫)、南久が原の昭和のくらし記念館といった施設もある。

 

 ここで課題として語らざるを得ないのが、先に述べたお店にせよ、温泉にせよ、各施設にせよ、東京24区のなかでも比較的広い区域を持つ大田区の中に散在していて、区外からわざわざ足を運んでくださった方がいたとしても回り易くはなっていないということ。距離だけではなく、高低差もある複雑な地形をもっており上り下りもある。

 

 お隣品川区で「しなバス」という小型のバスを巡回運航されているが、ああいう小回りが利く公共交通機関を既存とは異なる路線で走らせてはどうか、というのがひとつの案としては考えられるかもしれない。

 

 別の案としては、大田区内の施設を二輪車歓迎に全振りして走行も駐輪もし易いように整備してはどうか、ということも考えられる。交通ルールの遵守が前提はなるだろうが。

 

 いずれの案にせよ初期費用も運用費用もかかるはずで、そういった方向に投資をする余地が区の財政としてあるかどうか、ということについては検証して書いているわけではないのだが、既にある大田区が持っている「財産」を相互に結び付けてこのまちをより栄えさせることができると良いのだけど、という気持ちで書き連ねてみた。