蕎麦屋のあと

 2年前に南馬込に来た時、大森駅前の池上通り沿いの商店街に、古い蕎麦屋さんがあった。なかなかよい風情で、一度入ってみようと思いながらついに入らずにいるうちに閉めてしまい、建物も壊されてしまった。

 この土地建物の持ち主が変わったのか、同じ人なのか存じ上げないのだが、跡地に立ちつつあるビルの無味乾燥さをみて、暗澹たる気持ちになった。四角いただのビルである。一階は店舗になるのだろうが、やはり味気ない。

 池上通りは古い街道で、恐らく律令制が活きていた時代には東海道としての役割を果たしたはずのみちである。池上本門寺への参詣みちとして活きていた時代もあるのではなかろうか。そういう由緒ある場所なのだから、ビルを建てるにしても一階は建て替え前の雰囲気を残すとか、手立てがあるのではないかと思うのだがいかがだろうか。費用がないというならば、そもそも建て替えなきゃいいのに、とも傍からはおもう。

 この商店街沿いには、ところどころに「山王まちづくり憲章」というのがパウチされて貼りだされている。

  1. 由緒ある山王を愛し、歴史と文化を守り育てましょう
  2. 商店街や住宅街が調和した、暮らしやすく、美しいまちにしましょう
  3. 明るい太陽や豊かな緑を大切にし、良好な環境を維持しましょう
  4. 楽しく、魅力あふれる商店街にしましょう
  5. 人と人とのつながりを大切にし、誰もが安心して住み続けられるまちにしましょう

 1〜3は日本では法制度や土地に対する所有観念から非常に難しいことになったりしているのだが、それでもまがりなりにもこのような憲章が公布されているならば、それが守られている具体例がないと有名無実化してしまうかとおもう。上記蕎麦屋など、好機だったのにと残念におもう。