椋箚記

主に合気道とまち歩きについて

入り身投げの表と裏

 少し前に大田区合気道会での稽古が終わった後に「入り身投げの表って知っていますか」と聞かれて、それがどうやら私が大阪市立大学で稽古していた入り投げの形に近いものらしい、ということが分かったので少し書いておきたい。

 

 最初に合気道とか特にご存知のない皆さんに書いておくと、合気道において「表技」とは相手の前側に導くことをいい「裏技」は相手の背後側に導く技を指す。厨二病的に「普段稽古するのが表で、実は裏技がある」とかいう格好良い言葉ではない。

 

 入り身投げにおいては、通常表とか裏とか言うことがあまりない。基本技として初心者から高段位者まで繰り返し稽古するが、相手の背後に導く形が基本で稽古することが圧倒的に多いからだ。齋藤守弘師範の模範演武の映像から説明すると、正面打ちから相手の背後に入り身をする。

 

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 ここから上方に相手を導き、相手の顔に腕を重ねるようにして背後に倒すという説明になろうかと思う。

 

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 この齋藤先生の入り身投げが私は好きなのだが、普段の稽古では相手の背後に入り身した際にさらに背後に円を描きつつ流し、そこから返す形を稽古している。その例として植芝守央道主の演武映像も見させていただいたのだが、道主は流れの中で投げる際に相手の背後に回り込みながら投げるようにされる。これは隙のない投げだが説明上例としてあげるには難しく引用を断念した。 以下は上記齋藤守弘師範の画像の元映像。

 


Morihiro Saito Sensei. Shomen Uchi

 

 では道場で話題となった「入り身投げの表技」はどうかというと、入り身をして相手の背後に入るところまでは同じと考えて良い。そこから入り身した足を元に戻すようにして投げる。これが「表技」かというと考えてしまうが、足を戻す際に相手の前面に入っていると言えなくもないかもしれない。ただ道場で話している際にも「そっちが裏じゃないですか」とか異論が出ていたのでこの、表技・裏技の呼称が正式なものか今もって自信がない。

 

 大阪市立大学合気道部で稽古していた入り身投げだが、この度「入り身投げの表」の名で近いものを知るまで他で目にしたことがない。市大合気道部は阿部醒石師範門下だが、初期に藤平光一師範の指導を仰いだ先輩がおられるので心身統一合気道の何らかの影響があるのだろうか、とぼんやり思っていた。

 

 しかし改めて藤平光一師範の公開されている映像を見直して見ると、現在私などが稽古している入り身投げと変わらないものもある。また、すーっと上に導いてすとんと下に落とす、という形が多いような印象を持った。ただ、なかにひとつ近いものがあった。以下にやはり画像化して示している。

 

 とすると技の説明が受け渡されていく中で伝言ゲーム的に「表技」的な面が強調されて市大合気道部に伝わってしまったのかもしれない。

 

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 下の画像で藤平師範は微かにだが左足を引くような動作で受けを投げられている。ここでは襟を持っておられるが、市大合気道部では首の横に手を当てていた。余談だが齋藤守弘師範の稽古に参加した時に「受けの首を持つのは失礼だ。あれは藤平光一師範が始められたんだ」と非難されていたのを聞いたことがある。これを見ると襟を持たれる場合もあったようで、齋藤師範が植芝盛平翁先生の技の通りに稽古されようとしたのと比べると技の形に自由度があるような印象がある。

 

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 大阪市立大学合気道部も終わってしまったし、そもそも最近はここで言う「表技」な入り身も稽古していなかったように聞いているので、いずれ消えてしまうものかぐらいに考えていたが、意外に変化技のひとつとして残り得るのかもしれない。 

 


1960 / 1970 Aikido with Koichi Tohei