傘の修理

 既にこの夏のことだから半年経ってしまっているのだが、長年使っている傘が壊れた。傘の骨のうち、一本の繋ぎ目のジョイント部分が破断してしまった。

 10年くらい前、まだ大阪に住んでいた時、堺に仕事でしばしば行っていた。ある時堺から豊中上新田に戻っていく途中で雨に降られ、難波の地下街(なんばウォーク)にある傘やで買ってさして帰って以来使ってきたものだった。

 大事にしてきたとは言い難いのだが、壊れたからといって捨てるのは忍びない。現に遡ること少し前に東北新幹線に置き忘れた際、宅配便料を払って仙台駅から送ってもらったりしていたので、骨が折れたのを直せばまだ使えるだろうという気になった。

 結果として半年経った今に修理に出し、めでたく直ったのを受け取ってきたのだが、傘専門の修理やさんに辿り着くまでの経緯を書き記しておく。

掬いの神

 傘の骨が破断した時に、修理依頼先として最初に思いついたのが、神田駅前にあるとある傘店だった。今回壊れた傘の前に使っていた傘を買った店で、骨が通常より一本少なく、とても軽くて使いやすい傘だったが酷使に耐えかねて曲がったりして廃棄となり、既に手元にはない。

 楽天に店を出していたはずなので改めて検索して辿り着いたのだが、掲示板を見ると「入金したのに傘が届かない」「問い合わせが何ヶ月も放置されている」とクレームの山になっているのを見て、黙ってサイトを閉じてしまった。

 一方で傘が壊れたことと、修理店が近くにないだろうか、ということを Twitter に書き込んだところ、思わぬ方からリプライを頂いて驚いた。


Twitter / @宮武和広(心斎橋みや竹)傘屋の和ちゃん:それはおそらくスエヒロさんでしょう…

 大阪の傘店、みや竹のご主人、宮武和広さんのアカウントから。

 私などは Amazon だの楽天だのが世に持て囃されるよりも早く傘のネット通販を立ち上げて名を上げたこの店には畏敬の念を持っていたので、直々にアドバイスを頂けるとは全く予想していなかった。それにこの時点で宮武さんのツイッターアカウントがあることは存じ上げていたが、フォローもしていなければ宮武さんのアカウントに対して問い合わせた訳でもなんでもない。宮武さんが、あるいは「傘」のキーワードで私の tweet を引っ掛けて掬って下さったようである。

 頂いたアドバイスを元に、なんばウォーク内にあるスエヒロに電話してみた。記憶にある店の位置と、店名から検索して得たマップと照らしても、スエヒロで買ったことに間違いなさそうだった。

 ところが電話すると「うちは修理はやっていないんで」とあっけなく断られてしまった。

 駄目だったのでやはり近所で修理店を探すかなぁ、と Twitter に書き込んだ。この時も独り言だった。見つからなければ傘は不燃ごみに出して新しいのを買おうかと思っていた。

 ところが宮武さんはまた掬って下さった。


Twitter / @宮武和広(心斎橋みや竹)傘屋の和ちゃん:@Mukunokiy いろいろお探しのようですね、都…

 かくして幡ヶ谷の仲屋商店のことを知った。

幡ヶ谷の仲屋商店

 その後仲屋商店に電話をしてみた。

 してみたのだが、職人と思われるおじさんの早口が聞き取れず、困っていると結局「持ってきてよ」と言われて終わってしまったので直に店に行くしかないようだ、という結論になった。

 ところがこの幡ヶ谷という土地が馬込から見ると遠い。なかなか行く機会もなく過ぎていたのだが、12月27日に自分が通院する際(私は狭心症様の症状が出る事があり、今も定期的に通院している)その後に上野に御遣いに行ったあとの時間を使って幡ヶ谷まで傘を担いで行くことにした。

 新宿から京王新線が出ているということも知らずに甲州街道沿いのまちに辿り着き、幡ヶ谷の商店街に入ってすぐ左に入ったところに店を見つけた。

預けた傘を振り返る

 店にはベテランとみえる職人の親父さんが二人いて、傘を見せると破断したとこなど骨のつなぎ目を示して「傘はこまめに干さないとね。錆びてるでしょ」と指摘された。所帯を持ってからは家内が晴れた日に傘をベランダで干してくれるが、私がずぼらをしたのが顕著に傘に出ていたらしい。「直せるよ」というのでお願いした。

「明日にはできるから取りに来て」と言われるので、取りに来れないかもしれないから宅配便で送れるか聞いた。送料が800いくらだかかかるがそれでも良いと言うと、じゃ明日確認の電話を早めにくれ、と言われて承知した。

 翌日の仕事納めの日、昼ごろ電話をすると、職人さんとは別の方が出られて「明日まで店は開いてますので取りに来られて」と言われる。家内と相談して、結局家族を引き連れて傘を引き取りに自動車で行った。

 年内最後の営業日らしい29日は修理受付はもう終わっているので職人さんはいない。前日に電話に出られた、おそらく当代のご主人かと思われる方ともうひとりご婦人が傘店の方で対応して下さり、綺麗に直った傘を700円だったかの修理費で受け取った。直ったのを受け取るとやはり嬉しいもので。

 それでは終わらず、家内が店内の傘をあれこれ見ていて気に入ったのが出て、新しい婦人傘を一本購入して帰ることとなった。仲屋商店さんにとって良い仕事納めの客となれたのなら、良いのだが。

昔ながらの傘修理店