僕の財布

 同じ財布をかれこれ10年使ってきた。正確な日を覚えていないが、場所は覚えていて京都四条河原町高島屋に寄った時にふらりと買った。Paul Smith のブランドの黒い長財布。愛用してきたが、中の小銭入れの部分の生地が破れてきたので、財布が破けとっちゃぁつまらんかろうと新しいのを買いたいと思っていた。

 話が脇道に逸れるが何故京都だったのかよく覚えていないが、以前書いた合気道の稽古に行くときに使っているナップザックも京都の一澤帆布で買ったり、私の思考回路のどこかに京都は特別なものを買いに行く場所だというような思い込みが書き込まれているのかもしれない。奈良に住んでいた中学・高校生時代も近鉄に乗って西大寺経由で京都に行くといろんな道を適当に歩いたり、本屋をはじめ店を見て回ったりしたものだったし、大阪に住んでいた当時も何か理由をみつけて京都に行っていた。

 さて私は東京に来た今も仕事の都合で関西に出張することがたまにある。全日空の機内誌をいつも読むが、そこで「東京・物」というページがある。タイトルの通り東京で帰る様々な「良いもの」と店を紹介している。ここで谷中の「Leprotto (レプロット)」という革製品をつくっている小さな店を知った。

 そこで紹介されていた革財布が印象に残り、あとで検索してみるとウェブサイトにカタログがあり参照できた。

 何ヶ月か前に時間をつくって夕方谷中を歩いて店を探しに行った。実は上記ウェブサイトに掲載されている地図が古く、諦めかけたのだが住所を調べなおして検索したところ見つけられた。谷中と根津の境、染物やの丁子屋の近くだ。先日NHKで「ブラタモリ」を見ていて、藍染川あとの道に沿ってあることになることを知った。文京区と台東区の境の道で Leprotto は台東区谷中側にある。

 2回見に行って、家内にも見てもらったうえでこの店で新しい財布を買おうと決めた。何度も来て買わないからご主人もなんとなく顔を覚えて下さっているようだったが、都度革や形状、メンテナンスについて教えて下さった。

 11月に家族を連れて3回目の訪問をした。Leprotto ではセミオーダーで財布をつくる。形と革の色を選ぶと、そのオーダーで持って作ってもらうのだ。前金で5,000円をお渡しした。

 長い時は2ヶ月くらいかかる時もあると聞いたのだが、丁度2週間後にお電話を頂き、再び家族で財布を受け取りに行った。ついでに子供たちを上野の国立科学博物館に連れて行くことにして。

 で、財布を受けとって使いはじめている。今まで財布に入っているけど使っていないものは外し、かつ定期(Pasmoカード)を別にしていたのも財布に収めて持つようにした。

 家内が「嬉しいやろう」と言ってくれるのだが、確かに嬉しくて。自分はブランド物とかじゃなくて、こういう作る人と話が出来る物で、良いものが好きなのかも知れない。この歳になって分かった気がした。

 ご主人の説明では革は使い込むと色に変化が出る。革は丈夫だが糸が5年くらいでほつれたり擦り切れたりするので、メンテナンスを承るのだという。メンテナンス中の財布を見せて頂いたが当初とは色が深くなり変化している。10年と言わず使い続けるつもりで購入したが、既に手に馴染みはじめた自分の財布がどんな色になっていくのかが楽しみになっている。

僕のついの財布