河豚についての雑談

 東北地方では河豚を食べるということをあまりしないらしい。

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 河豚の種類と毒のある部位について知識なく、というか「トラフグ以外の白子に毒はないと思っていた」(トラフグの白子は食用に供される。今回中毒の原因となったヒガンフグの白子には毒がある)と逆の認識で65歳の店長さんは調理していたそうなので、中途半端にテレビなどで見た知識だけだっただろうと想像される。

 うちの実家は山口の須佐(現在は萩市)だが、下関からは距離があるので普段河豚を食べるということはないし、とはいえ毒の怖さはみな知っているので自宅で調理など考えもしない。須佐ではまだリヤカーで魚を売りに来てくれるおばちゃんがいるが、当然ながら河豚など持ってこない。ちゃんと調理して出す店があれば食べるだろうが、どちらかというとそういう店は瀬戸内側に多い印象がある。

 ニュースでは「フグの調理資格については都道府県ごとに条例で定められていて、厳格さに差がある」ことを一様に取り上げていた。東京が全国で一番厳格なのだそうだ。

 そのことを以前に聞いて知っていたことに気がついた。

 聞いた場所は私が生まれ育った奈良の学園前、近鉄の駅から北にまっすぐ行き、大渕という池のある辺りの交差点にある「浪漫」という料理屋さんである。私が大学生かSEになってすぐぐらいに親の勘定でいちど連れて行ってもらったことがある。それなりの値段だがご亭主の腕がよく、たまにはまた行こうか、となりそうな感じの店だ。

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 ここには以前サティがあったがご存知のとおりマイカルが経営破綻しイオングループに入ったあたりで撤退、現在はコープやドラッグストアが入っているらしい。そんな時間の移り変わりをものともせずに店は続いているようで、やはり常連客がついているのだろうと推測する。記憶ではご亭主が中央の板場で調理しながら料理を出してくれるのだが、背のひょろっと高い朗らかな人で客と話しながら楽しそうにやるのである。

 その時に河豚の話になり、ご亭主が「大阪は試験がきびしうて、私は奈良で調理資格をとらして頂きました」と話していたのだ。そのとき(ふうん、ふぐって調理資格が場所で違うんだ)と感心したことをなぜかとても鮮明に覚えている。ちょっと本当も入っているのかもしれないが、奈良といっても黒門市場までそんなに遠くはなく、ご亭主は謙遜して言われたのではないかという気がする。ちなみに奈良は調理資格について試験が義務付けられているそうだから、東京ほど厳しくないとはいっても甘くもなかろうとおもう。

 私は時々一定の方面のことに興味が沸いて集中的に調べてしまうことがあるが、毒というのがブームだったことがある。澁澤龍彦さんの『毒薬の手帖』はそういうブームとは関係なく読んだが、それ以外にも何冊か本を買って読んでいた記憶がある。きのこも毒キノコについてばっかり調べていたりとか。

 河豚毒のテトロドトキシンが猛毒でかつ熱処理でも変化しない、というのもその時に知識として得たのだが、一方で北陸だかで毒のある白子を糠漬にすることで毒を抜いてしまう技術がある、という話も載っていたと記憶している。どうも本当らしい。

石川新情報書府「奇跡の毒抜き−ふぐの卵巣の糠漬けに見るいしかわの発酵文化−」

 こういうのを中途半端に知ると、また間違う方が出そうで怖いのだけれど。

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