椋箚記

主に合気道とまち歩きについて

ある夜、大森のバーで

 滅多にバーなんてものに出入りはしないのだが、ひとりで行動するのが苦にならない性格故に却って選んで入ってしまうことがある。最近はチャージでびっくりするような額が乗っていたりする店ばかりでもなく、バーカウンターを挟んで世間話をして何か有意義な時間を過ごしたかのような錯覚に浸ってみたりする。

 六本木に Ant'n Bee というビア・バーがある。ビールが好きなので、普段飲まないようなビールを飲みに行く店のひとつ。

 昨年末に森アーツセンターに歌川国芳の絵を見に行った帰りに Ant'n Bee に立ち寄って帰った。

 カウンターの向こうに、たこさん、と呼ばれている女性がいる。店長さんなのか、スタッフさんなのか、自分はよく知らずにしゃべっている。

 こんなやりとりがあった。

「お客さん、どちらですか」

「大森」

「大森かぁ……行かないですねー」

「行かないだろうねー、こっちからだと、わざわざ」

 続けて、大森に女性のバーテンダーさんがされている店があって、勉強になるから見にいったら良いよー、って言われたけど行ってない……という。

 かれこれ大森に来て7年になろうとしているが、そんな店があるなんて知らない。だが調べてみるとすぐ分かった。Tenderly、というバーで、入新井の駐輪場や交通公園の近く。

 別の場所で軽く飲んで大森駅に戻って来た時に酔いの勢いを借りて初めてのバーの階段を上った。


Bar Tenderly

 写真のジントニック一杯で帰るつもりだったのだが、モスコーミュールまで頼んで日付が変わるまで飲んでしまったのはオーナーでバーテンダーの宮崎さんと話していたからで、この店に来るきっかけから話しはじめて、酔っ払いの駄弁に付き合って頂いた。

 大森の生まれ育ちなのだそうで、私の子ども達が卒園した幼稚園の先輩であるということが分かった。地元に戻って店を開かれたわけで、お通しにあった甘納豆も大森駅前の鷲神社そば、木田屋という店のものが選んであった。

「おおもり桜フェスティバル」という催しのパンフレットを下さった。

 お祭りは4月の初め、Tenderly の前にある桜の植わっている広場で行われるそうだが、このお祭りにも行ったことがない。大森駅周辺のバーが参集して桜の下で飲食を提供するばかりでなく、置屋さんから芸姑さんが出て踊りを見せたり華やかであるようだ。

 昨年は、開催を見送られたとのこと。

 東日本大震災のあと、子どもも訪れるお祭りであるため余震が来ることを考えるととても守れないだろうと思ったので已む無く、ということだった。

 今年は開催予定である。花見は馬込桜並木で済ませてしまうことが多いのだが、大森に家族を連れて行くのもまた良いかもしれない。ふと、大森で暮らす時期と、その前に住んでいた豊中上新田にいた時期、ほぼ同じ7年になりつつあることなどにもふと思いが至った。

 どちらにせよ、ジントニックは今まで飲んだなかで一番美味しい一杯だった。だからきっとまた行くのだ。Ant'n Bee に行く言い訳も出来たぞ、と思う酒飲みである。

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