多人数掛けに学ぶリスク管理

 大学合気道部においては、在学中の4回生のうちに二段の昇段まで受けるというのはひとつのパターンだった、という話を以前書いたことがある。全員がそうするわけでもないのだが、私も4回生で二段を頂いたひとりである。

 自分が卒業した直後の歳に2年若い後輩が二段の昇段試験を受けたので、多人数掛けについてアドバイスをしたことがあるのをふと思いだした。

 合気道の試験において多人数掛けは、最初1対1で始まり、30秒ごとに1人加わって……という風に乱取りをする。

 アドバイスしたのは単純なことで、「状況ごとに技を決めておいたらええ」ということだった。状況というのは、

 最初は相手を投げておれる時。

 相手1人に捕まえられた時。

 相手2人に捕まえられた時。

 3人以上に完全に押さえられた時。

 相手を投げ続けている時はかける技の選択の余裕があるが、捕まえられるとなんとかその場を脱さないといけないと焦るので余計に動きが止まってしまうことに得てしてなる。

 相手1人の段階ならば、どの技で切り抜けるか、というよりも当て身を使うことを決めていればどうかと私などは考える。

 2人以上に捕まえられるといよいよ選択肢が狭まるが、捕まえられたところからどう呼吸投げで相手をまとめて投げたり倒したりできるか、その技をまず決めておいたらいいよ、ということを話した。参考にしてくれたかどうかは分からないが、後輩は乱取りもそつなくこなし二段に合格した。

 こんなことを最近になって思い出したのが、上記アドバイスは私が自分でやっていたことを後輩と共有するためにコトバにしたものなのだが、リスク対策みたいなことを自然に考えていたんだな、とふと思ったもの。

 勤務先での仕事においても「ここにリスクがある」みたいなことを事前にチームメンバー誰もが察知できるようにするのが理想だったりする。

 一方で震災以降、内閣であったり、省庁であったり、東京電力であったり、リスク管理がさっぱり成っていないのを目の当たりにして(これで民間企業がリスクだの一生懸命備えてるの馬鹿みたいだ)と思わざるを得なかったりもする。

 とはいえ予防策としてのリスク管理を日々しているのだが、自分の場合リスク対策に関する考え方に稽古から覚えたことが混ざり込んでいるようだな、と思った次第。多分そういう混然としたところから成り立っている考え方の方が健康で、組織の中のことしか見えていないような状態だとリスクへの鋭敏さは衰えるのではないか、という気がした。

 最後に。私の多人数掛けの理想は自分の師範のものである訳だが、ここでは塩田剛三先生の説明演武の動画があったので貼らせて頂く。もし相手に捕まえられたら、というような想定が馬鹿らしくなるほどの飛び切り上級のお手本がここにある。