失われた5000人からの信用

 2007年に経営破綻した「NOVA」の元社長の初公判が行われている、という記事のなかで破綻時点で外国人講師が約5000人おり、そのうち事業引継ぎ先に再雇用されたのは500人程度、と書いてあった。改めてその人数の多さに気づく。再雇用された方々以外のほとんどが「日本に絶望したひとも多かった」……とは所属労働組合の委員長の方の弁という。

 受講生が先払いした受講料が戻らない、という問題はもちろんのことながら、5000人もの国外のひとたちに強烈なマイナス体験を焼き付けたという罪は重い。事実関係は認めるけれど、横領ではない、なんていう事柄ではない。

 国外から日本に来られている方、といえば私にとっては、合気道の稽古の中で会うというのが一番身近だ。留学や仕事で来日したのを機に道場に来た、という方もいれば、合気道をするために、内弟子として稽古するために来日されたという方もある。

 自分は機会があれば(最近ほぼないけど)大阪市大の合気道部の後輩に、できるだけ外に出て稽古するように、という話しをする。自分の経験というのもあるけれど、国外から合気道を稽古するために来た、というひとたちを見て言っている部分もある気がする。自分は彼らほどの行動が出来るか、ということ。

 斉藤守弘先生も合気ニュースのインタビューで「外国人に合気道は理解できない、という意見があるが」と聞かれて「そんなこと言う人がいるのは悲しいことだ。見知らぬ国に来て、泥にまみれて畑仕事もして、稽古をしている。素晴らしい人たちだよ」というようなことを話されていたと記憶している。斉藤先生の道場の内弟子さんには外国の方も多い。そういった海外からのお弟子さんたちを斎藤先生も評価されていた。

 ひとつ思い出すのが、自分が大学2回生のときの春合宿、小豆島に行ったときのこと。

 宿につくとそれまで合宿をしていた別の大学の合気道部の方から、一緒に稽古してあげてほしいというひとを紹介された。トルコの方でムスタファさん(アルファベットでつづるとMr.Mostafa、かな?)と言った。

 彼は合気道のために来日している人のようだった。見上げるような体格。当時の幹部(私の1年先輩)3人と相部屋で泊まり、我々の稽古に参加した。そして我々の合宿が終わると、次の大学の合気道部 − 神戸大合気道部だったと記憶している − に先輩が紹介し、また稽古を続けていた。

 なんとバイタリティある稽古の仕方だと感心したのだが、あとで先輩に聞くと部屋では布団に寝転がって "I want to go home!" と何度もうめいていたという。ホームシックに耐えながら、それでも合気道に打ち込んでいたのかもしれない。

 もちろん日本に来る人も千差万別で、志を抱いて来る人も、言われて来る人も、なんとなく来る人もいるのだろうけども、余程の財力でも無い限りのいくばくかの不安を持って来られるのだろうとおもう。折角来られたからには「いい感じの日本を感じて」もらいたいものだとおもう。

 それをほぼひとりで、5000人について台無しにした。5000人は黙っていず、家族や周りの人に日本の嫌な思い出を語り続けるかもしれない。

 更におもうのは、Wikipediaから拾った情報によると、公判を受けている元社長が中山泰秀という自民党所属の代議士を後援しており、破綻前NOVAが特定商取引法違反で捜査を受けたあとこの中山氏がNOVA側の正当性を経済産業大臣に訴えたりしていた、という話について。

 この代議士は父親が中山正暉という引退した政治屋で、吉野川河口堰について徳島で住民投票が行われた際の印象が私のなかで決定的である。住民投票を否定するような発言をしたのだが、具体的にどうこうというよりも、その件でニュース番組などに出た時の態度の悪さ、人を見下した言い方、そのうえ都合の悪い話しは聞かない、という立ち居振る舞いのひとつひとつが醜悪だった。

 その息子もそのミニチュア、という印象だったのだが、5000人の外国人講師に日本の悪印象を与える、という壊滅的なことをひそかにアシストしていたとこのたび知って、印象が確信にかわった。