ヒラマサとヒラソ

 家内の実家から刺身にできる魚と果物が宅急便で送られてきた。うちの夫婦の実家のある山口県須佐は、魚がおいしいと自他ともに認める土地である。岳母など「魚は長門より萩がおいしい、萩より須佐がおいしい」と言うくらいである。その魚が送られてくるというのは贅沢というほかない。

 岳母としては孫たちに食べさせたい、と送っていただけるものだが、残念なことに丁度次男がおなかにくる風邪のようで金曜日に幼稚園に迎えにいく騒ぎとなり、寝込んでいた。私も仕事に出ていない日だったため初めて病気でお迎えということになった。先のインフルエンザも高熱は一両日で治まり、幼稚園に元気に復帰していたのだが、なんとも間の悪いこととなってしまった。

 その魚について、はたと気がついたことがあった。

「今回送ってもらったのは、なんという魚だったか」ということである。

 夫婦で「ヒラマサだとおもっていたけど、ヒラソだったかな」「そもそも、ヒラマサとヒラソって違う魚なのかな」というような話となり、そもそもふたりそろって平政という魚、ヒラソという魚についてきちんと知らずに食ってきたことが判明したのだ。

 調べたらありがたいサイトがあり、すぐにヒラマサとヒラソは同じ魚であり、ヒラマサが正式和名らしいと判明した。

ヒラマサ/平政 市場魚貝類図鑑

 上記サイトだけの情報だが、「ヒラソ」という呼び名は伊豆七島や愛媛の南宇和郡でも使われるらしい。その関連性については先ほどまで知らなかった私の知識の及ぶところではない。

 むしろ思いつくのが、実家の須佐ではちりめんじゃこのことを「しらそ」と呼ぶのである。私はこの方言も知らず、最初家内に「しらす、じゃないの?」と聞き返したものだが須佐の図書館で方言辞典を調べたら須佐特有の言葉として出てきた。

「ソ」音を好むというのは朝鮮半島から古代に来た言葉にみられる傾向と聞いている。「阿蘇」とか、「小曾」というような地名によく言われるが、日常の言葉でもあるのかもしれない。

 須佐では終助詞として語尾に「そ」を使う事例がある。標準的な表現で「そんなこと、しちゃだめですよ」ないし「そんなこと、しちゃだめなのよ」というのと同じ意で

あね、せんそよ

 というような言い回しで使う。これが自動車で30分ほどの距離である萩に行くと「ほ」になる。

あね、せんほよ

 という言い方に変わる。

「須佐」という地名からしてスサノオノミコトを連想させ、朝鮮半島との関係がしのばれるのだが、これだけ交通手段やネットが実行力を持つようになっても特色が残るというのは、なんとなく面白い。

 そんなことは関係なく、このたび送ってもらった鯛とヒラソは家族のおなかを満たした。次男は食欲が出てきたところで鯛を少しだけにしておいた。