日本にとって、そして大阪にとってすばらしいお手本

 先日かつて奈良にあった実家の話からコメント欄のやりとりがあり、これから日本でまちのありかたってどうがいいんだろうか、地域コミュニティは続いているならばいいものの、一度なくなってしまっている場合はどうすればいいんだろうか、なんてことを書き連ねた。

まちの「行きかた」について - 椋箚記

 難しく考えなくても、実例があれば真似すればいいじゃん。そう言えそうな記事を読んだ。タイトルのつけ方も勉強になる。

日本の未来が見える村:日経ビジネスオンライン

 記事を書いた篠原匡さんという日経オンラインの記者については、上記私の文章で言及した『今の資本主義はもう、やめてくれ』という安田喜憲氏へのインタビュー記事もこの方の記事だ。その他、障害者が働くスウェーデンの国営企業サムハル」を取材したシリーズ、福岡の「日本一視察の多いスーパーマーケット」、「ハローデイ」を取材したシリーズなど興味を持って読んでいた記事が篠原氏の手による記事と気がついた。優れた書き手さんが日経ビジネスにはおられることを今更ながら認識。

 それはさておき、『日本の未来が見える村』こと長野県下條村は副題の通り「出生率2.04」の実績を残している。その結果に至るまで、現村長の伊藤喜平氏が就任された1992年(17年前、私がSEになった翌年だ。それくらいかけて実現したことなのだ)からかかっているものを、篠原氏の記事から盗ませていただくのは申し訳ないことだが、こういうまとめ方になるだろうか。

下條村の目標)
村民増加によって村を活性化する

(行った施策と効果)

  1. 徹底的な財政の見直し → 財政の確保
  2. 行政サービスの明確化
  3. 行政サービス以外のことを任せることで、地域コミュニティが活性化
  4. 明確化した行政サービス(住宅補助や子育て支援)を、確保した財源で施行する
  5. 若い夫婦をターゲットに向上した行政サービスに引かれて、村民が増加


 私が注目したのは行政サービスの明確化を行い、「資材支給事業」という考え方で小規模な道路の整備などは住民に任せるやりかたを採った結果、地域コミュニティが活性化した、という話である。資金は村から得られて、実際の活動は地域の住民たちで主体的でやることになった結果、勝手に活性化したというのだ。

 例えば「行政サービスの明確化」というのはITIL(ITサービスを運用するにあたっての最適事例集、ないしガイダンスのようなもの)におけるサービスレベル定義を想起するし、コミュニティ活性化のくだりは仕事を任せて人を育てる手法に通じるものを感じる。難しく考えるよりも、組織を動かしていくノウハウや仕事をうまく進めていくやりかたはなんにせよ通底するという、当たり前のようなことに気がついた。

 いわゆる性悪説に基づいた、様々なルールに縛った中央省庁の補助金政策や税制に効果がないことは負の意味で実績がある。一方で下條村地方公共団体が予算を保証された状態で最適な施策を考えれば良い結果を生み、更に地方公共団体が住民に予算を保証して任せることを任せれば、その地域に最適な解を生んでいくという正の方向の実績を示している。

 地方公共団体で、国から「独立」して運営している例は他にもあるのだろうとおもう。『日本の未来が見える村』には下條村近くで高齢者福祉に優れた泰阜村が取り上げられているし、近隣市町村との合併をせずにコスト削減と行政サービスの向上を図った矢祭村は私でもすぐに同じような例として思い出した。

 他の地方公共団体も行動を求められるとおもうし、まずいま次の実績を世に示すことを求められるのは、2009年度の一般会計当初予算の黒字化を果たしたと報じられた大阪府であろうかとおもう。

『日本の未来が見える村』で報じられた下條村の施策にあてはめると、大阪府はやっと一番目の「徹底的な財政の見直し → 財政の確保」が出来つつあるところにまで達したところ。2009年度も財政の見直しを継続しながら行政サービスレベルを明確に定義する段階に入る。今年になるか来年以降になるかわからないが、中央省庁から独立し確保した財源でもって行政サービスの質を高めていくならば大胆な公共施設廃止などにより橋下府政に異を唱えている声も収まっていくのではないだろうか。