座右

『猫間川をさがせ』の電子書籍を百名の方に献本しよう、という目標をたてた時、相談する相手として伊吹卓先生が最初に思い浮かんだ。

 大阪にいた時は、何度か伊吹先生の話を直接伺う機会を得て、下の文章の時のように一対一に近いような状態でお話することが出来たこともあった。

伊吹卓先生-椋箚記

 現実には、すぐに献本を進めるのにいろいろな壁があるのを発見し、相談する前にまず改善しないといけないことがいくつもある、と思うようになってしまった。もし今でも大阪にいたら時間をみつけて相談しに行ってしまったかもしれないが、それができないということは天の思し召しかな、などとおもう。

 ご相談にあがるかわりに、伊吹先生の著作を購入した。

売る力―ヒットメーカー、トップセールスマンを育てつづけた男の指南書

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 伊吹先生の解かれるところの中心は「商売上手の二大秘訣」、「苦情法」と「着眼法」である。これをまとめた本には絶版になっているものも多いのだが、2002年に初版が出た本書があるのを再確認して購入した。

 既に、座右の書になっている。

 タイトルから一見書店に溢れているビジネス書、営業マニュアルっぽいが、違う。確かに商売を主眼に書かれているが、「苦情法」と「着眼法」の考え方は人の育成にも、組織の運営にも、適用できるほど根本的なものであることが分かりやすく事例を引いて書かれている。

 半年ほど前から、組織をリードするには、というような観点から書物を選んで買うことを習慣にしている。1〜2ヶ月に1冊、というようなスローペースだが、この本が一番重要だという認識が日に日に自分の中では強まっている。

 冒頭で書いた電子書籍に当てはめても、重要なことに気づかされた。

 例えば、お客様に受け入れられるには、商品パッケージが重要、というテーマがある。商品の外観の良し悪しを「美人」「不美人」というような表現で表すのだが、電子書籍化した自分の文章はもちろんだが、改めてダウンロードソフトとしてT-Timeと他のソフト、具体的にはiTunesGoogle Earthなどと起動直後の見た目を改めて比べた時、(これはきびしい)と思い知った。T-Timeはボイジャー社提供のソフトだから勝手なことを書くと怒られてしまうかもしれないが、この見た目のビハインドを思い知って、T-Timeをオープンソース化するなんてことは無理だろうか、と考えてしまった。

 レイモンド・ローイ(Raymond Loewy)について言及した箇所も染みた。

 伊吹先生が電通にお勤めのときの話で、デザイナーというのは芸術家だから気難しく、「広告主はデザインが分からないから、どうしようもない」なんてことばかりを口にしていた。ところがトップ・デザイナーだったローイは調査の結果消費者から評価されなかったデザインは容赦なく捨ててしまった、というくだりがある。

「デザイナー」を「プログラマー」だとか「S.E.」なんて言いかえをすると、自分が給料をもらっている業界においても当てはまる。